砂や息を吹きかけたガラスに指で書く、あるいは黒板やホワイトボードに書く、そうした時の文字は、記号として認識できる最低限の要素で表すことが多い。この場合の文字は文字の骨格をなす基本要素を示しているといえる。基本的な要素に均等な太さを与えエッジをシャープにカットした文字が19世紀にできたサンセリフである。文字の歴史から見れば非常に新しい書体なのである
文字の形は筆記する道具により形成される特徴を持ち、長い歴史の中で豊かな表情の形で伝承されてきた。漢字やひらがなは筆で書くことにより形成される形が基本となっている。アルファベットの場合は石に刻むノミで形成される形や先が平たいペンで描かれる形が基本となっている。和文も欧文も筆記する道具により生じる文字の書き出しと書き終わりの抑揚が文字の形の重要な要素になっている。
日常的にフォントと呼んでいる書体は、グーテンベルグの鉛合金の活字から始まっている。その鉛活字にこれまで培われてきた文字の形をどのように再現するのか、様々に作られ淘汰されてきてきた。この基本となる文字の形を古代ローマ時代の石碑文字からの流れにあるローマン体と平ペンによる筆記の流れのゴシック体(ブラックレター)がある。中国や日本では、鉛活字以前に木版が利用されていた。筆で描かれた形を木にどのように刻むのかの工夫がされてきた。こうした経緯を踏まえ鉛活字を作る時に現在の明朝体と呼ばれる書体が生まれたのである。そしてアルファベットのサンセリフの特徴に合わせたのがゴシック体である。
ローマン体で最もポピュラーな書体はTimesである。Timesは1932年にスタンリー・モリソンがタイムス社の依頼で作った書体である。モリソンは、欧文書体の研究家で、数多くの鉛活字の書体を検討してタイムスを設計している。特に1549年のプランタンが作った書体を基にしてタイムスニューローマンをデザインしている。そのプランタンの書体は、1532年頃のガラモンの書体を基にしたといわれている。ガラモンは、1495年のベンボーを基にしたといわれている。その先は古代ローマ時代のトラヤノスの記念碑にたどり着く。
2003年3月
木村浩(情報デザイン/筑波大学芸術学系)
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