デザインでアフォーダンスという言葉が語られるようになったのはD.A.ノーマンの著書「誰のためのデザイン」からであろう。ノーマンはプロダクトデザインにおいてアフォーダンスの重要性を次のように述べている。椅子は見るだけで腰をかける家具であることがわかる。金づちは見るだけでどのように使うかがわかる。電化製品をはじめコンピュータも見ただけで使用できるようにすべきだといっている。わかりやすさ理解しやすさのためのユーザビリティの観点から語っているのである。
展示施設では、展示意図に基づいた展示計画で構成され限られたスペースに多くの展示物をグループ化し配置している。様々なものが数多く展示されている展示施設では、理解への手順としてストーリーを設定している。そのストーリーに基づき、順路を設定した展示と、順路を示さない自由散策型展示がある。
当初の展示計画とは裏腹に、来館者が予定の順路通りに移動しないことがおこり、わかりにくいと指摘されたりする。また、自由散策型では、来館者が順路の指示を仰いだりする。これらの対策として、最初は手書きの張り紙で注意書きや誘導の案内をする。手書きでは美観を損ねるので、その場にふさわしいサイン表示を設置する。しかし、人は、誘導の案内板よりもその場にある様々なものからサインを感じ取り行動するので、よほど大きな表示をしないと認識されない。最終的にはロープ状の柵を設置したり、パネルをたてたりと物理的な方法で強制的な誘導を行なうようになる。こうなると展示空間のバランスは大きく崩れてしまう。
順路通りに移動できないのは、次のコーナーへの入り口が薄暗く様子がわかりにくい 場合や次の展示物が見えなくて寂しく感じる場合などが考えられる。必要なのは、次へ誘導できる空間を演出することなのである。サイン表示のみですませるのではなく、おいでおいでと導く状況を作り出す必要がある。誘導サインのみではなく誘導させる空間を作るためにアフォーダンスは重要な視点となるのである。
アフォーダンスはデザインにおいて、わかりやすさ・使いやすさの重要な視点として取り組むことの必要性を示している。人は不変項を察知して行動しているとするアフォーダンスの視点は、人工的に不変項を配置することによって、わかりやすさ・理解しやすさをデザインすることも可能ではないだろうか。アフォーダンスは、コミュニケーションのデザインにおいても、特にインターフェースやWebなどでのナビゲーションシステムではこれからの重要な検討課題といえる。
2003年1月
木村浩(情報デザイン/筑波大学芸術学系)
筑波大学芸術学系木村浩研究室 > 情報デザイン > デザインの基本