中学校一年生の鑑賞指導事例:「丑久保健一さんのボールとの出会い」

 本物の彫刻品を触ったり撫でたりの鑑賞授業が行われました。中学生が自分で見つけた言葉から感じて考える活動、そして、グループ活動での話し合いを通して、自分が感じるままの感触や気持ち、考えをまとめ、作者へのメッセージを書くという鑑賞授業です。

 

  1. 彫刻作品:丑久保健一さんの10∞のボール


 作品は、家族のご好意によりお借りしました。6個の凹むボールを中学校のワークスペースの中心部に置きました。

  • 注) 宇都宮美術館の社会人学芸員ワークショップ(2011年12月~2012年6月)に参加した経緯から、社会人学芸員として中学校の外部講師になり、栃木県茂木中学校で一年生の鑑賞授業を行いました。


2. クラスの人数と班分けについて:一クラス24名、6班

 

3. 授業の打ち合わせ:

 

 美術教師、美術館の学芸員、社会人学芸員が、事前に美術館に集まって授業のイメージを話し合いました。

 

4. ワークシート:ボールとの出会い

 

 

授業の経過:

 

*彫刻作品は、いつも触って鑑賞できるわけではないということを身ぶりのパフォーマンスによって説明します。そして、美術の先生に確認してから講師が作品に触ったり撫でたり、面白そうに鑑賞します。          (5分)

 

●ステップ1:触ってみて!感じるまま、言葉にしてみて!  (15分)

 

・造形要素とのふれあいを楽しみながら、班で意見交換し、班の発表を行います。

・触ってみて、どういう感触でしたか?

 

 作品とのふれあい:班から一人ずつ作品を触ってみます。

  • 1番:これから誕生日を最初に迎える人。班に戻って自分の感触を他の人に教えてあげま   しょう。
  • 2番:じゃんけんで他の2人に勝った人。班に戻って自分の感触を発表します。
  • 3番:(思いやりで)2人話して決めます。
  • 4番:触ってから、班のまとめをクラス全体で発表します。

(講師が横でサポートします。)

 

  • *  ステップ2に入る前、講師がボールに話しかけてみますと、ボールになりきって答える生徒を探し、ロールプレイを行います。

 

●ステップ2:ボールと対話してみましょう!  (15分)

 

  •  班活動をします。ボールに話しかける人、ボールになりきって答える人に役割を決めて、話し合いましょう。
  •  ボールとどのような話をしましたか?  ボールの気持ちを想像したでしょうか? なぜボールがへこんでいるのでしょうか? ボールを自分に置き換えてみると、どんなつながりがみえてくるか、考えてみませんか!

 

 まず、4番の人がボールになります。他の3人は、質問を考えて、ボールに話しかけます。そして、3番の人から1番の人まで、順番に皆がボールになります。

 

●丑久保健一さんとボールについてのプレゼンテーション  (5分)

 

(3分間のパワーポイント、出典『丑久保健一展』2004年宇都宮美術館カタログ)

       スライド

 

 ステップ3に入る前に、生徒さん達が静かな時間を過ごせるような環境を整え、作品や作者、そして自分をみつめる時間を作ります。薄暗い部屋の中パワーポイントを見終わり、生徒達に目を閉じてもらいました。そして、ワークシートのステップ1とステップ2に示されたことを再び問いかけ、ステップ3に入ります。

 

●ステップ3:作者へのメッセージを書いてみよう!    (10分)

(あるいは、奥さんへのメッセージを書いてみましょう。)

 

 例えば、触った感触や感動したこと、感謝したい気持ちなど、自分はどのようにボールに癒(いや)されたか、あるいはボールを通して自分のことをどのように考えたか、というような内容を書いてください。

 

時間がある場合、数人の発表が行われます。

 

■ワークシートによる生徒達の短文(一部)

 

生徒A:

「私は丑久保さんの作品を見て感動しました。木は固いし重いのに、ボールはやわらかそうで軽くふわふわしている感じに見えたので凄いなあと思いました。ボールの凹みが安心するようなやさしい凹みだから、自分が落ち込んでいるときなどは、このボールを思い出したいです。。。。。」

 

生徒B:

「ボールの凹みにどんな意味があるのか。僕は最初にボールを見たときにそう思いました。でも、実際に触ったりスライドショーを見たりした。人それぞれを表しているのではないかと考えました。それぞれ違う形をしたボール。それは人間も動物も同じだと思います。この授業で自分は自分だということに気づくことが出来ました。本当にありがとうございました。」

 

生徒C:

「触った感触はとても重かったです。こんなきちょうなボールを触らせていただいてとてもうれしいです。私は、このボールをみたとき人の心のおく底にある形のようにみえました。人の心はかんぜんな球体ではない、かならず闇やこどくがある。ですが、このボールは自分の力でもとにもどろうとしている、私はそう感じた。そしてその形がものすごくきれいな形をしているようにみえた。」

 

生徒D:

「見た目は、凹ませただけのようにしか見えないので、実際に触ってみるととてもなめらかな凸のない木の質感で見ていても、触ってもとても癒される作品でした。凹みや大きさもすべて違っていて、特に凹みの折れているところは実際に凹んだかのようになっていました。木からここまでなめらかな質感ができることに驚かされました。今までの木に対する考え方が変わりました。」

 

生徒E:

「このボールは自分が落ち込んでいるときの気持ちのように感じました。心では落ち込んでいても、それを外側には出さないところが、一部へこんでいて、あとはつるつるのボールに化けていると思いました。人の手でこんななめらかにへこんだボールを作れるのは、すごいと思いました。とてもおもしろかったです。」