日本サイエンス・ビジュアリゼーション研究会
イベント
2022年
出題:
島田裕子・丹羽隆介

専門領域:
発生生物学・分子遺伝学

イラスト制作:
大岩夢佳 / 神山悠 / 座間味凜 /
具志堅芽生 / 小林祐 / 正角優吏 /
齋藤瑞香 / 堀越まりあ / 尾坂拓郎 /


寄生生物の生存戦略〜宿主の体をのっとるメカニズム〜(アート重視のイラスト)

目的: 様々な寄生生物が巧妙かつユニークな生存戦略を駆使して、宿主の体を乗っ取り、自らの成長を遂げていく様子を、高校生以上の一般人及び分野外の学者に伝えるためのイラストを作成する。
対象:高校生以上の一般人および分野外の学者

問題

特定の寄生生物の生活環に着目し、その寄生戦略をわかりやすいイラストで表現してください。特に、寄生者が宿主を乗っ取る際に、どのような分子メカニズムで寄生が実現されているのかを、実際の研究で明らかにされていることを調べて、表現してください。

解説

寄生とは、他の生き物(宿主)から栄養資源を一方的に搾取する生活形態のことです。地球で最も繁栄する昆虫類において、寄生蜂の種数は、全昆虫種の約20%をも占めると予想されています。それは、寄生が生存戦略として有効であり、寄生蜂は、宿主の体を巧妙に乗っ取るための毒成分や分子機構を数多く進化させてきたからと考えられます。しかしながら、寄生の分子機構には未解明な部分が多くあります。
 私たちの研究グループは、ニホンアソバラコマユバチという寄生蜂が、宿主ショウジョウバエ幼虫の体を乗っ取る寄生戦略に着目しています。この寄生蜂は、宿主となるハエの幼虫に麻酔や毒成分を打ち込み、幼虫を動けなくした後に産卵します。孵化した寄生蜂の幼虫は、宿主の幼虫内部で共に成長して、宿主のハエ幼虫が蛹化してから捕食して殺します。そして、宿主ハエ蛹から寄生蜂が羽化します。このように、寄生蜂が直ちに宿主を殺すのではなく、寄生蜂にとって、都合の良いタイミングで殺す仕組みを「飼い殺し型寄生」といいます。
 私たちは、この「飼い殺し型寄生」に必須である寄生蜂の毒成分の同定を目指して、寄生蜂のゲノム解析や毒成分の精製分画を行っています。この毒は、寄生蜂にとって必要ない宿主の組織を殺す一方、宿主の脳神経系には作用しません。この毒のおかげで、寄生蜂の幼虫は、宿主幼虫をうまく生かし続けながら、宿主の栄養を搾取することができます。
 ニホンアソバラコマユバチ以外の寄生蜂種においても、様々な作用を持つ毒成分が知られています。例えば、タマバチ科の寄生蜂 Leptopilina heterotoma では、宿主ショウジョウバエ幼虫の造血幹組織を殺す Lar タンパク質が同定されています。Lar が、産卵時に宿主体内に注入されることで、宿主の免疫防御機構が破壊されるので、寄生蜂は宿主体内で育つことができます。一方、近縁種の Leptopilina boulardi では、Warm タンパク質が産生されています。Warm の機能は未だ不明ですが、宿主の免疫防御機構である血球細胞の攻撃から寄生蜂卵を保護する役割があると考えられています。このように、寄生蜂の毒成分は、種によって、その作用機序が異なっており、寄生戦略の分子機構の中核を担っています。


評価のポイント
1. 寄生生物と宿主の生活環が表現されているか(寄生蜂である必要はない)。
2. 寄生の分子機構(毒の作用機序)が描写されているか。
3. 魅力的でインパクトのある絵になっているか。