日本サイエンス・ビジュアリゼーション研究会
イベント
2016年
出題:
三輪佳宏

専門領域:
医学医療系/バイオイメージング・実験動物学

イラスト制作:
岡田岳陽 / 内海由佳 / 井上直也 /
於保拓高 / 仁戸部真生 / 野濱ありさ /
岩村梨央


光音響in vivo非侵襲イメージング
(アート重視のイラスト)

目的:高校生以上の一般人や研究者向けに、研究の目的や概要を説明するスライド
対象:高校生・一般人〜医学研究者(年齢15〜70歳)

問題

次の文は、生きたままのマウスの体内を、マウスに傷付けることなく非侵襲にイメージングする方法として、「光音響」という新しい方法について説明したものです。挿絵としてこの内容の理解を助け、光音響イメージングのもつメリットやこれからの可能性がわかりやすい明るいイメージのイラストを描いてください。

解説

これまではマウスを研究する際には、動物を殺しながら一部をサンプルとして取り出して分析をする手法が中心でした。しかしこういった方法では、同じマウスの時間経過を調べたり、1匹1匹のマウスの個体差について調べたりすることは難しく、たくさんの動物を殺しても不正確なデータしか得られないこともよくありました。そこで私たちの研究室では、蛍光タンパク質や有機系低分子色素を用いて、細胞内の様々な変化に応答して光り方が変化する分子スイッチ機能つきのプローブ開発を進めています。またこれと並行して、民間企業と連携した新しい飼育方法の準備なども進めてきました。生きたままのマウスの体内でのin vivoイメージングする技術を発展させることで、直接、生きた動物個体の中での個々の細胞の働きを解析しようとしています。

これまでに、近赤外光を使って、マウスの体内を非侵襲で3次元イメージングする技術を確立しました(昨年までの作品参照)。ほ乳動物の体が不透明なのは、ヘムによって光が吸収されるからですが、650 nmより波長が長い近赤外光(〜900 nm)はこの吸収を免れるため、ほ乳動物の体内に数センチメートルの深さまで浸透できることが知られていました。私たちはこの近赤外の中で2色の色素を同時に識別しながらイメージングできる手法を確立しています。この技術を応用すると、マウスを傷つけることなしに、ヒトに似た様々な疾患の状態を非侵襲近赤外蛍光イメージングによって調べることが可能になります。それぞれの疾患をイメージングするための遺伝子操作マウスをたくさん開発することによって、様々な病気を克服するための研究を行うことが可能になります。

ただ、この近赤外非侵襲3次元蛍光イメージングでは、体内のおよその位置はわかるものの、深さや解像度は不十分でした。この問題を解決する方法として「光音響イメージング」が注目されています。この方法では、超音波断層撮影の手法を応用します。体内に存在させた色素にナノ秒パルスのレーザーを照射することで、瞬間的に組織が熱膨張を起こし超音波を発生します。光音響イメージングは、この超音波を捉えることで体内をイメージングする方法です。  

目に見える可視光は、吸収も散乱も大きいため、哺乳動物の体内に深く入ることができません。近赤外光は、吸収が小さいため、体内に深く浸透することができますが、散乱は大きいため、光が拡散してしまい、解像度の高い鮮明な画像を得ることができません。ところが、光音響イメージングでは、行きは近赤外レーザー光を用いるために深部の色素に到達することができ、帰りは超音波が戻ってくるので組織内での散乱や減衰が小さくて済みます。超音波診断用のプローブをあてて検出すると、深さ方向の超音波断層像から臓器の画像も取得でき、その中で蛍光物質の位置も光音響で検出できます。

そこで、今回の課題では、光音響イメージングを行うことで、順番に拡大率や体内の深さ方向の情報を取得し、自由自在に生きたマウス体内の観察が可能になることを表すイラストを作成してください。

評価のポイント
1.  課題の内容や出題者の意図を正確に表現しているか。
2.  一目見て内容が分かりやすくできているか。
3.  魅力的でインパクトのある絵になっているか。
4.  光音響イメージング手法の価値や原理が正確に表現できているか。