日本サイエンス・ビジュアリゼーション研究会
イベント
2014年
nomura
出題:
野村港二

専門領域:
生命環境系/植物細胞工学

イラスト制作:
高橋遥/鈴木ゆり/永野真未/細田胡桃/
大橋伸太朗


細胞の核は超過密、巨大分子をどう出会わせるか
(解説重視のイラスト)

目的:教科書のイラスト、初級の生物学の講義資料
対象:大学生、出前講義先の高校生

問題

細胞の核内で、DNAとタンパク質が出会うからくりを描く

解説

細菌とラン藻以外の生物の細胞では「核」と呼ばれる構造の中に、遺伝子の本体であるDNAの大部分がおさめられています。核の中には、長さ数センチにもなる超巨大分子であるDNAと、DNAに関連する酵素の複合体として、DNAを合成に関わる酵素群や、修復に関わる酵素、DNA上の遺伝子の発現に関わるRNAポリメラーゼ合成酵素の巨大な複合体などが存在します。

核の中に押し込まれた、DNAなど超巨大分子が、どのようにして他の分子と出会って機能するかは説明ができていない問題です。ビーカーの中の溶液をグルグルかき混ぜながら行うように、一般的な化学反応は、薄く均一な溶液中で、複数の分子が自由に運動して、偶然出会って起こるという前提で議論されています。でも、核には常識的にはとても溶けるはずのない濃度のDNAが押し込められています。また、たとえばヒトの場合には染色体数は46本、男性の性染色体ではXとYが1つずつです。とても均一に存在するという状況ではありません。酵素の側も、RNAをつくる酵素は「転写ファクトリー」と呼ばれるような巨大な複合体です。とても核内を自由に動き回って相手を見つけるなどできそうにありません。熱力学的な不可能を、核の構造はなんとかしているのです

その一つの方法として、核の内側に足場となる構造が存在し、DNAも酵素の複合体も、その足場の上で出会うという仮説があります。DNAは紐ですから、足場の上で手繰り寄せれば、必ず目的の遺伝子が出てきます。そんな核内の骨格構造によって、遺伝子が存在し、必要な遺伝子の情報を提供する核という場所が、上手に機能している様子をイメージできるイラストができないでしょうか。

評価のポイント

カラーユニバーサルデザインのコンセプトにのっとりながら、ダサくないこと。




植物の体細胞は分化全能性を持つ(アート重視のイラスト)

目的:シンポジウムなど専門家の集会のポスター
対象:プロ

問題

植物の体細胞から、いろいろな器官が分化することをロマンティックに描く 

解説

我々の体を構成している体細胞は、別のタイプの細胞に分化する能力をほとんど持っていません。特に、受精卵の細胞のように体のどの部分にでも分化できる能力である「分化全能性」を、自然な状態では発現しないと考えられています。胚の細胞の分化全能性を維持させたまま培養したES細胞や、必要な遺伝子を送り込んで体細胞から受精卵のような状態を作り出したiPS細胞が注目されるのは、このような背景があるためです。
 一方、花の咲く植物である高等植物では、体を構成する細胞の中に分化全能性を持つ細胞が存在しています。これは、挿し木をすると、それまで枝だったところから根が分化してくることからも想像できます。培養された植物の体細胞から、胚が分化する不定胚形成は、植物の体細胞が分化全能性を持つことの実験的証明と考えられ、動物の細胞でも同じような現象を誘導することが研究者の夢ではあります。
 今では、「花が咲く」という誰でも知っている現象が、植物の体細胞の分化全能性を証明すると考えられています。花の中に雌性の配偶子(卵)と雄性の配偶子(花粉の中の性核)が作られて、受精、胚発生を経て次の世代が生まれます。全能性を持つ体細胞が植物体に無ければ、この方法は実現できません。動物では、胚発生の比較的早い段階で、将来生殖細胞になる細胞は運命づけられ、体の発生には直接は参加しないで、いわば保管しておかれます。実は、動物では体内で、細胞を動き回らせる機能を持っていますが、植物の細胞は隣同士ゆるく結合しているので、位置をずらすことは可能でも、あちらの細胞をこちらに持ってくることはできません。発生の初期に将来の生殖細胞を保存しておいて、必要になったら取り出してきて使うということができないので、体細胞から配偶子を分化させるしかないのでしょう。
 実験室レベルでは、植物の体細胞から、胚だけではなく、芽、根、花などの特定の器官や組織だけを分化させることが可能になっています。このことを美しく描いていただければと考えています。



評価のポイント

ストーリーがあると嬉しいです。