• 日本サイエンス・ビジュアリゼーション研究会
    日本サイエンス・ビジュアリゼーション研究会
    イベント
    2014年
    出題:
    三輪佳宏

    専門領域:
    医学医療系/バイオイメージング

    イラスト制作:
    高橋宏治/小森由佳/魚津沙織/
    木村有希/齊藤明美/田口温子/野口悠梨


    近⾚赤外シームレスイメージング法の確⽴
    (解説重視のイラスト)

    目的:研究費の申請書に⼊れる挿絵、講演でのスライド
    対象:一般人~医学研究者(年齢 20~50 歳)

    問題

    次の文は、生きたままのマウスの体内を、マウスを傷つけることなく非侵襲に蛍光イメージングする方法についての説明文です。挿絵としてこの内容の理解を助ける分かりやすいイラストを描いてください。

    解説

    これまではマウスを研究する際には、動物を殺しながら一部をサンプルとして取り出して分析をする手法が中⼼心でした。しかしこういった方法では、同じマウスの時間経過を調べたり、1匹1匹のマウスの個体差について調べたりすることは難しく、たくさんの動物を殺しても不正確なデータしか得られないこともよくありました。そこで私たちの研究室では、蛍光タンパク質や有機系低分子色素を用いて、細胞内の様々な変化に応答して光り⽅が変化する分子スイッチ機能つきのプローブ開発を進めています。またこれと並行して、⺠間企業と連携した新しい飼育⽅法の準備なども進めてきました。

    これまでに、近赤外光を使って、マウスの体内を⾮侵襲で3次元イメージングする技術を確⽴しました(昨年までの作品参照)。ほ乳動物の体が不透明なのは、ヘムによって光が吸収されるからですが、650 nm より波長が長い近赤外光(〜900 nm)はこの吸収を免れるため、ほ乳動物の体内に数センチメートルの深さまで浸透できることが知られていました。私たちはこの近⾚外の中で2色の⾊素を同時に識識別しながらイメージングできる手法を確立しています。この技術を応⽤すると、マウスを傷つけることなしに、ヒトに似た様々な疾患の状態を⾮侵襲近⾚外蛍光イメージングによって調べることが可能になります。それぞれの疾患をイメージングするための遺伝子操作マウスをたくさん開発することによって、様々な病気を克服するための研究を行うことが可能になります。

    ただ、この近⾚外⾮侵襲3次元蛍光イメージングでは、体内のおよその位置はわかるものの、深さや臓器との位置関係が完全には、はっきりしませんでした。⼀方で、局所を開いて個々の細胞がわかるぐらいに拡⼤して観察する、詳細なintravital microscopy も盛んになってきていますが、顕微鏡レベルの視野で考えるとマウスの体はあまりにも⼤大きすぎて、どこを観察すればよいかの判断が難しい。そこで、この2つのイメージング⼿法を結ぶ中間的なイメージング⼿法として、「光音響イメージング」を考えています。この⽅法では、超⾳波断層撮影の⼿法を応用します。

    組織にナノ秒パルスのレーザーを照射することで、瞬間的に組織が熱膨張を起こし超音波を発生します。光音響イメージングは、この光音響効果を利用したイメージング⽅方法です。通常、生体組織診断を行う際に、超⾳波よりも光の空間分解能が高いですが、光⾳響イメージングでは、⾏きはレーザー光を⽤いるために非常に小さなフォーカスが可能であり、帰りは超音波が戻ってくるので組織内での減衰が⼩さくて済みます。超音波診断用のプローブをあてて検出すると、深さ⽅向の超⾳波断層像から臓器の画像も取得でき、その中で蛍光物質の位置も光音響で検出できます。

    そこで、今回の課題では、1)近⾚外⾮侵襲蛍光イメージングと、2)Intravital microscopy に加えて、3)光音響イメージングを⾏うことで、順番に拡⼤率や体内の深さ方向の情報を取得し、⾃由⾃在に生きたマウス体内の観察が可能になることを表すイラストを作成してください。


    評価のポイント

    1.  課題の内容や出題者の意図を正確に表現しているか。
    2.  一目見て内容が分かりやすくできているか。
    3.  魅力的でインパクトのある絵になっているか。
    4.  光音響イメージング手法の価値や原理が正確に表現できているか。
     


    生体内に近い培養法研究の重要性(アート重視のイラスト)

    目的:⾼校生以上の⼀般⼈や研究者向けに、研究の⽬的や概要を説明するスライド
    対象:⾼校生・一般⼈~医学研究者(年齢 15~70 歳)  

    問題

    次の文は、生体内の環境に近い細胞培養方法を開発する研究についての説明文です。挿絵としてこの内容の理解を助け、様々な生命の仕組みの解明が進む明るいイメージの分かりやすいイラストを描いてください。

    解説

    これまで、シャーレの中で細胞を培養する方法は、生化学や分子生物学の発展の基礎となる重要な実験方法でした。しかし、マウスなどの実験動物でも遺伝子操作や様々な分子レベルの実験が可能になってみると、得られるデータが食い違うケースが多いことも分かってきました。

    私たちは、生きたままのマウスの体内でのin vivoイメージングする技術を発展させることで、直接、生きた動物個体の中での個々の細胞の働きを解析しようとしています。しかし、生体内環境はとても複雑なので、この方法だけでは、細胞の中での遺伝子やタンパク質などの分子の働きを完全に解明することは難しいのが現状です。そこで発想を変えて、生体外でのin vitro培養方法を見直し、より生体内に近い培養技術を確立することができれば、それぞれのデータの互換性が高まり、生体内の現象を分子レベルで解き明かす助けになると考えています。

    そのために、私たちは現在、3つの新しい培養法法を研究しています。この3つをうまく表現してください。
    1) 複数種類の細胞を同時に混在させるミックスカルチャー法の開発:ただ単に複数の細胞を混ぜてしまうと顕微鏡下でどの細胞がどれかわからなくなります。そこで、蛍光イメージングの技術を応用して、異なる細胞をそれぞれ違う色の蛍光で光らせて識別可能にしてから混在培養する方法を試しています。
    2) 3次元培養法の開発:体の中の環境は3次元的ですが、これまでのシャーレでの培養では、底面のみに細胞がはりついて2次元的な培養が行われてきました。そこで立体的に培養する方法を検討しています。
    3) 至適酸素培養法:大気中の酸素の濃度は20%です。しかし体の中では、肺から吸収された酸素が血流にのって運ばれて全身の組織に届く過程が必要なので、そんなに高濃度の酸素は存在しません。組織によっても違いますが、だいたい8 ~10%程度です。そこで、酸素濃度を10%に下げて培養してみると、細胞がより活性化し、増殖も早くなることがわかりました。つまり、20%酸素の環境では、あまりにも酸素が多すぎて、そのことが細胞にとって強いストレスになっているということです。そこで、簡便に低酸素培養する方法を開発したり、酸素濃度の違いがどのように細胞に影響するかを調べています。


    評価のポイント

    1. 課題の内容や出題者の意図を正確に表現しているか。
    2. 一目見て内容が分かりやすくできているか。
    3. 魅力的でインパクトのある絵になっているか。
    4. 新しい培養法の開発が、細胞内の分子機能の解明につながる明るいイメージを伝えているか。