日本サイエンス・ビジュアリゼーション研究会
イベント
2012年11月
出題:
小林麻己人

専門領域:
医学医療系/分子発生生物学

イラスト制作:
塩満鋭美 / 簗瀬晴香 / 中島靖雄 /
荒木茉莉子 / 宗田真悠 / 方啓昊


設計図はひとつなのに(解説重視のイラスト)

目的:サイエンスカフェや研究室紹介に用いるスライド
対象:大学生及び一般市民

問題

通常、一つの設計図からは、1種類の製品しかできない。ところが、ゲノムという設計図からは、その読み取り方の違いにより、血球・神経・筋肉などを構成する何百種類もの異なる細胞ができる。しかも、時が経つと、赤ちゃんから子供へ、子供から大人へ、さらに老人へ、と、刻々と製品が変化する。私たちは、こんなにすごい設計図をもっている。その不思議さをアピールするとともに、その謎を知りたくなるようなイラストを描いてください。

解説

私たちの体を形作る、ひとつひとつの細胞は、ゲノムという設計図をもっている。その中には、2万数千の遺伝子とその発現制御を規定する情報が書き込まれている。ゲノムの実体はDNAである。A,G,C,Tというたった4文字の暗号だけから成り立っている。遺伝子はあるだけでは、役に立たず、読まれて、初めて働くことができる。遺伝子が読まれることを「遺伝子発現」と呼ぶ。具体的には、ゲノムDNAの遺伝子の部分が、RNAに転写され、さらにそのRNAがタンパク質に翻訳され、酵素や構造タンパク質として機能発揮することを指す。どの遺伝子セットが、いつ、どれくらいの量、どの組織で発現するかは、数千種類ある転写因子と呼ばれるタンパク質群により制御されているが、その制御は、やはりゲノムDNAの遺伝子付近にある「遺伝子発現制御領域」に書かれた命令により調節されている。

ゼブラフィッシュを医学に活用する(アート重視のイラスト)

目的:サイエンスカフェや研究室紹介に用いるスライド
対象:大学生、医者、及び、一般市民

問題

医学の研究をする際に、ヒトを実験材料には使えない。代わりに、モデル実験動物を使う。主として、マウスなどの哺乳類が用いられているが、倫理的問題やコストの問題がある。そこで、最近注目されているのがゼブラフィッシュ。欧米の製薬メーカーでは実際に使われ始めている。ここでいう医学研究とは、創薬、病因究明、治療法探索、診断法開発、などを意味する。聴衆がゼブラフィッシュを活用したくなるような、魅力的なイラストを作成してください。アート重視にします。実物を見たければ、ラボに見学に来て下さい。

解説

 ゼブラフィッシュは、インド原産の小型熱帯魚である。体調は、4-5 cmでメダカと似たイメージ。実際に、ダニオという学名は稲の魚というベンガル語で、メダカの学名(オリジアス: 稲(オリザ)の魚)と同意。入門編の熱帯魚として著明で、ペットショップで一匹100円くらいで売られている。
 研究への活用は、1970年代に開始され、遺伝学・胚発生学的手法・トランスジェニック技術が適用可能なことから、1990年代には発生学分野ではメジャーなモデル動物になった。特に、1995年にショウジョウバエの研究でノーベル賞を取ったヌスライン=フォルファートが、骨のある動物で研究したいと本格的に活用したことで、市民権を得た。2000年代にゲノム解析が進展し、遺伝子ノックダウン法が開発され、さまざまな研究分野で、マウスに並ぶのヒトモデル動物になってきた。さらに、ケミカルバイオロジーやバイオイメージング技術がもっとも活用しやすいモデル動物のため、創薬の分野でも注目されるようになってきた。
 特徴は、大量飼育が容易、産卵を頻回にできるかつ多産、胚や幼魚が透明で体の内部が見える、幼魚は特に小型(2-3mm)で薬剤投与が簡便、さまざまな突然変異体が揃って遺伝学的研究がしやすい、などです。最近では、色素細胞ができない変異体である透明ゼブラフィッシュも開発された。医学への活用のポイントとしては、ヒトと同様の遺伝子セット・遺伝子発現機構・臓器・発生過程・生体防御機構・発がん機構などをもつこと、である。